海外不動産協会メルマガ(2021年11月09日発行)

海外不動産協会メルマガ(2021年11月09日発行)

今月のメルマガは、『売買契約上の管轄裁判所と準拠法の注意点』について、理事の犬塚 伸彦氏が発信いたします。

売買契約上の管轄裁判所と準拠法の注意点

海外不動産を購入するにあたり,契約時にあまり重要視されない契約上の規約について今回は取り上げたいと思います。当然ながら,当職の実務においての経験レベルでのご紹介となりますので,具体的な法律論については弁護士にご相談頂き,あくまでの参考例としてお読み頂ければ幸いです。

売買契約時の翻訳の役割

海外不動産を購入するにあたり,呼び方は国ごとに微妙に異なる場合があるが,必ず必要となる売買契約書(Sales Purchase Agreement)通称「SPA」である。
開発者(デベロッパー)との間に直接締結されるのが一般的であり,仲介業者,ブローカーと言った類の業者はあくまでも「媒介者」としての位置づけとなり,現地語又は英文での契約書締結時において,簡易翻訳という形で提供され,「契約上の疑義が生じた場合に当社は翻訳については法的義務を負わず,また英文(現地語)を正とします。」などの断りがあるケースが多く見受けられる。

契約書の翻訳の法的な帰責性については,販売者は契約締結までの関与をしているにも関わらず,契約の内容においては責任を負うことなく,あくまでも開発者(デベロッパー)の仲介業者として活動を基本としており,契約についての帰責性はほぼ「免責」の状態で,ほとんどの購入者は契約の内容や詳細をあまり吟味することなく,署名をしているのが現状である。なお,仲介業者と言えど,契約上の説明などに瑕疵がある場合は,状況により不法行為として損害賠償請求できる可能性あることは過去のメルマガでも触れたので,気になる方はバックナンバー参照して頂ければ幸いです。2021年6月8日発行 「海外不動産における訴訟のテクニック」

管轄裁判所について

今回のテーマである「管轄裁判所」と「準拠法」は分けて説明する必要があり,またそうすべきである。まずは,「管轄裁判所」であるが,そもそも想定が海外不動産であるため,正確には,「国際裁判管轄」と言い換えることにする。
一般的な「国際裁判管轄」の概念として,法務省民事局によれば,国際的な要素を有する民事裁判事件について,どのような場合に日本の裁判所が管轄権を有するかという問題が,国際裁判管轄の有無の問題であるとし,国際裁判管轄に関する民事訴訟法の主な規律の概要は次のとおりと説明している。
(1) 民事訴訟法第3条の2によれば,日本の裁判所は,被告の住所が日本国内にあるときは,管轄権を有するとされている。
(2) 民事訴訟法第3条の3第8号によれば,不法行為に関する訴えは,不法行為があった地が日本国内にあるときは,(被告の住所が日本国内になくても),原則として,日本の裁判所に提起することができるとされている。

さて,海外不動産取引においては,物も外国であること,契約上の売主も外国法人であることから,現地裁判所の管轄になり,準拠法においても現地法が適用されるとの規定があるのが自然な考えであり,契約書でも実務的には現地裁判所での合意が設定されているケースが大半であると思いますが,以下の特殊な例も存在します。

開発者(デベロッパー)が日本法人の場合

近年,日本法人が開発者(デベロッパー)となり,現地で開発を行い,売主として日本国内で販売するケースも見受けれられる。ほとんどが現地のデベロッパーと共同でプロジェクトを行い,また役割として日本法人は資金面での投資となるケースもあり一括りに出来ないのが現状であるが,この場合に,「国際裁判管轄」と「準拠法」の関係はどうなるのだろうか。日本法人が直接の契約当事者となれば,不動産が外国にあっても裁判所管轄は,日本国としても問題なかろうと思われるし,上記(1)であるように,仮に売買契約上に管轄の合意が現地裁判所であっても,あくまでも「現地裁判所でもできる」とするだけで,日本の裁判所で具体的な事件が取り扱うことが出来ないわけではない。では実際に,具体的な事件が日本の裁判所に持ち込まれた場合、裁判所はどのような基準を用いて自己の管轄権の有無を判断するのでるか調べてみた。
あくまで,具体的な成文法や判例にも左右されるであると思われるが,判例上は,「国際事件の管轄権の有無は当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定すべきであるところ,我が国の民事訴訟法の規定する裁判籍のいずれかが日本にあれば我が国裁判所に国際裁判管轄を認めるのが条理に適う,とされている」(マレーシア航空事件)。つまり,国内事件と同様に考えて,日本での裁判を認めることもできるとした判例である。

他方,国際管轄の合意の効力としては,判例は次のように有効とした例もある。
要旨「特定の外国裁判所を第一審の管轄裁判所として指定する合意は,当該事件が専ら日本の裁判所の専属管轄に属さず,かつ当該外国裁判所に管轄があるときは有効」とされている(最判昭和50年11月28日)。要するに,日本の法律上日本でしか扱い得ないとされている事件や,指定された国の法律上その国では扱い得ない事件といった特別な場合でない限り,日本の裁判所としては当該合意に従った管轄の判断をするというのである。

準拠法という壁

では,上記の裁判所管轄がクリアされ,日本の裁判所に事件が適法に受理された場合に,契約上の合意で,準拠法が当該不動産地の法律にするとされているケースである。ちなみに,準拠法とは一般的な概念として,国際的な要素を有する私法上の法律関係について,どのような場合にどの国の法令が適用されるかという問題が,準拠法の問題とされるものである。

上記の開発者(デベロッパー)が日本法人の場合でも,合意による現地法の適用を契約上で取り決めている場合は,日本の裁判所では取扱いは難しいと状況になると当職は考える。準拠法としていずれの国の法律を選択すべきかの規範は,裁判を持ち込まれた国の国内法が定めるが,合意がある場合,裁判所としては,それを尊重するのが普通であり,また,日本の裁判官が現地の法律を基準とした判断はおそらく「難しい」と言わざるを得なく,この場合は,裁判官は専門家のアドバイスに従い判断をして行くしかなく,事案自体が長期かつコストの問題が先行し,「割に合わない」となるケースが想定されるからである。

まとめ

海外不動産取引において注意すべき点は翻訳の内容の正確性よりも,(1)建設途中でのプロジェクト自体のとん挫する場合又は延期及び遅延などもの場合と,(2)賃貸借契約や管理契約の場合と分けて判断する必要があると考えます。

(1)の場合は,意外と重要視され気にされる投資家も多いと思われます。すべてが現地法の適用になる場合は,現地での対応が必須にならざるを得ませんが,日本法人との契約関係で「国際裁判管轄」と「準拠法」が現地法となっている場合に,日本での責任追及が事実上不可能になる場合も想定すべきであると考えます。「日本法人だから安心」ではなく,「日本の裁判所で争えるからまだ安心」と視点を変えてみてはいかがでしょうか。

(2)のケースの場合の賃料債権の債務不履行や遅延,解除事由に相当する事由が発生した場合における問題の争点は,物件自体の所有権などは投資家に残るため,考えられるのは,債務者が経営破綻をする場合など損害額が限定的であるケースです。その場合は,訴訟での終局的な解決を選択するより,物件の長期保有や売却を検討するなどの選択により,損害の回復が図れる場合もありますので,その事案にそった柔軟な対応が可能かと思います。

最後に,当協会などにもご相談頂ければ,微力ながらお力になれるところもあると思いますので,ご活用頂ければ幸いです。貴重な時間を割き、お読み下さいましてありがとうございました。

以上