海外不動産協会メルマガ(2021年6月8日発行)
海外不動産協会メルマガ(2021年6月8日発行)
今月のメルマガは、『海外不動産における訴訟のテクニック』について、発信いたします。
2014年に始まった海外不動産ブーム
2014年に始まった海外不動産ブーム以降,日本国内において投資家がキャピタルゲインやインカムゲインを目的とした投資物件を購入し,建設途中でプロジェクトがとん挫したり,実際に契約上約束された賃料保証などが現地の管理会社などの倒産や業績悪化により債務不履行になった事案で,東京地方裁判所などで訴訟になるケースが多発しています。
こうした訴訟事案における個人投資家と日本国内で販売を行った業者との間の「損害賠償請求」について,裁判所ではどのように判断されているのかをレポート致します。
始めにお断り申し上げますが,あくまでも,寄せられた情報を基に解説するものであり,個別具体的な事案については,弁護士にご相談されることをお勧め致します。
民事訴訟における「弁論主義」とは
協会に寄せられる苦情や独自のリサーチにより,今まで表面化されていたなった訴訟事案が,近年の民事訴訟により裁判所でどのように判断され損害賠償請求が容認されるのでしょうか。
我が国の民事訴訟では,損害賠償を求める場合は,原告においてその主張立証が求められ,事実上,誰でも訴訟を提起することができ,また訴訟を提起された被告側は,訴訟を無視することは「欠席裁判」を意味し原告の主張を全面的に認めることになるため,被告はたとえ原告の主張に理由がなくてもその旨を反論を法廷にて原告と争うことになります。訴訟を提起する側も,訴えられる側も相当の労力と金銭を負担することになります。
民事訴訟においては,「弁論主義」が採用されており,裁判所は双方の主張の正当性について判断するのみで,裁判所は当事者が主張しない事実を裁判の基礎にしてはならない制度となっています。
弁論主義の対義語としては,「職権探知主義」があり,裁判所は当事者が主張しない事実でも裁判の基礎にしてよいことになっています。行政事件や刑事事件などで採用されています。
販売業者への責任追及の法的構成について
誤解されがちなのは,「自分には正当性があるから裁判所に訴えれば,絶対裁判官はわかってくれる。」「約束が守られないから損害賠償が認められる。」と,一見実社会の中では当然に思われがちな主張も,弁論主義の下ではたとえ事実であったとしても主張を裏付ける説得力のあるエビデンスがないと裁判では役にたたないと考えたほうがいいでしょう。
海外不動産の投資などで個人投資家が損害を被った場合,民事訴訟において販売業者の違法性の主張・証拠の立証を行い,販売業者に対し金銭的な補完を求めることになります。
損害賠償請求をする場合,単に販売業者を相手に金銭的な請求を求めるだけでは足りず,損害と販売業者の行為の因果関係を立証しその違法性について争うことが必要になります。
また,訴訟を維持するためには法的構成が必要となり,民法やその他の法令のどの条文に照らし,販売業者がどんな法令違反をしたのかを主張していくことになります。
弁護士の中でも,海外不動産がそもそも国内法により,どの法令に照らし違法性を主張できるかを立証していく法的構成を組んで行くのか,そのハードルの高さをうまく説明できないまま,結局裁判上の和解で終わらせるような弁護士も中には存在しますので,事前に相談をする際にはしっかり「争い方」を確認してから委任するのが無難です。
多くの方がご存じのように不動産でありながら,海外不動産には宅地建物取引業法などは適用されませんので,争う場合は「詐欺」や「不法行為」などを理由に争わなければなりません。
そもそも「詐欺罪」は成り立つのか?
詐欺とは,相手を詐術により錯誤に陥れる行為です。
また,詐欺とは云えないような微妙な事態も発生することも多いでしょう。
例えば,海外不動産を購入し,無事契約が成立し,数年後に建築がされる予定だった物件が資金難など何らかの理由でプロジェクトがとん挫した場合,その責任はその物件を販売した業者にあるのでしょうか?
また,「25年間 年20%賃料保証」と言われ海外の不動産を購入し,登記が終わり所有権を取得した場合に,賃料保証が1年間あったが,その後何らかの理由で支払いがされなかった場合にそれを販売業者の詐欺と言えるのでしょうか?
販売業者が販売を行った物件について,「こんな物件を紹介して詐欺だ!」と警察に被害届を出しても,そもそも存在しない物件や,土地を不特定多数に販売して夜逃げした場合は論外ですが,実際に騙すつもりはなく「結果的に損害を負わせてしまった」場合は詐欺罪を立証するのは極めて困難です。
詐欺と一言で云っても刑事裁判の詐欺と,民事裁判おける詐欺はそもそも争う当事者が違います。
刑事裁判の場合,原告は検察側となり民事裁判では被害者と加害者の関係となります。
相当悪質でない限り,詐欺罪には問われないないことを理解しなくてはなりません。
また,投資家はあくまでも金銭的な損失についてその補填を求めるのが目的であるため,結局は民事訴訟にて争うことになります。
民事裁判による責任追及のロジック
金銭的損害賠償請求を主張する場合,当然,損害賠償が何であるかを具体的にエビデンスを添えて争うことになります。
しかし,先ほどのような例による損害は契約当事者である海外のデベロッパーや,賃料保証会社の債務不履行により直接損害を被ったのであるので,海外の法人などを相手に国際裁判などは現実的でなく,事実上個人には、ほぼ不可能であり投資家の怒りの矛先は,当然,国内で海外不動産を紹介し又は仲介をした日本の販売業者に向けられることになります。
ここで販売業者を相手に訴訟を提起しても,その法的構成や損害の因果関係はどのようなロジックになるのでしょうか。
おそらく,ほとんどの場合,「説明責任や販売紹介責任」となり,つまりは倫理や信義則と言った曖昧な道徳感であり、「言った言わない」の主観的な問題にとどまるケースが多い気がします。
弁論主義の下では,裁判所の判断では同情や正義は存在しません。「どちらの主張が説得力があるのか?」の判断しかしないため,たとえ事実無根の反論がされた場合でも反論に対する材料がなければ、相手の主張が嘘でも裁判所は原告に対して、不十分であると判断することになり,そういった意味では我が国の民事訴訟にはある程度の限界があると言わざるを得ないでしょう。
残念なことではありますが、訴訟テクニックが要求される民事訴訟はでは,被害者救済の視点は持ち合わせていないのが現実です。民事訴訟は双方の主張を裁判所が法令に照らし、終局的解決の観点から合理的に判断するだけであり、感情的な部分は排除されます。また,取引の直接の契約者でない販売業者に対し,損害との因果関係を認めてもらうには,販売業者が直接賃料保証するなどの契約関係でない限り,デベロッパーとの契約関係において,販売業者の帰責性を立証するのは困難と言わざるを得ません。
この場合,「不法行為」として訴訟の原因を提起するだけでなく,「不法行為と損害の因果関係」をしっかり法的構成を整えた上で,この業者の行為がなければ,得られたであろう利益を損害としてとらえ,業者の行為によって,損害がいつ・どのように発生せしめたのかを十分な証拠と共に裁判で争う必要があります。
結語
海外不動産取引においては,日本国内での常識や信頼関係にとらわれずに,一旦冷静になって想定されるリスクを考えることから始めることが重要です。
未然にトラブルを防止する最善の方法としては,業者任せにせず,独自の状況収集で多くの知識を集めることにより,海外投資をより安全にし,結果的に利益を守ることにつながるのではないでしょうか。
以上