海外不動産協会メルマガ(2021年5月11日発行)

海外不動産協会メルマガ(2021年5月11日発行)

今月のメルマガは、『木材価格の高騰「ウッドショック」』について、理事の島村 正人氏より発信いたします。

コロナ禍の木材価格の高騰

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で世界各国の経済情勢は混乱が続いており、不動産の取引動向や価格動向も予測し難い状況の中で、コロナ禍において生じた変化として注目される動きの一つが、木材価格の高騰である。昨今、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、世界中の住宅需要が高まっているといわれ、いわゆる、「ウッドショック」と呼ばれる木材価格の高騰が生じており、日本国内の住宅市場にも影響が出始めている。そこで今回は、世界各国の木材の輸出入動向、直近の木材価格等の推移を整理し、国内における林業の可能性にスポットをあててみようと思う。

世界主要各国の木材輸入量について林業白書

これまでの動きとして、世界主要各国の木材輸入量について林業白書でみてみると、2008年と2018年との比較で、産業用丸太の輸入量は、中国が3,209万㎥から5,980万㎥と筆頭に、スウェーデンで678万㎥から948万㎥、オーストラリアで755万㎥から1,003万㎥と輸入量を伸ばし、世界全体の輸入量は1.2倍増加しているが、フィンランドで1,337万㎥から694万㎥、韓国で641万㎥から409万㎥、そして日本で623万㎥から328万と減少している。製材輸入量についても、同じく中国が726万㎥から3,755万㎥と5倍増の勢いがあるほか、米国で2,214万㎥から2,667万㎥と増加し、世界全体の輸入量も1.3倍強増加している一方で、日本では1,032万㎥から942万㎥と減少している。

世界主要各国の木材輸出量

世界主要各国の木材輸出量をみてみると、2008年と2018年との比較で、産業用丸太の輸出量は、米国が1,020万㎥から1,281万㎥、ニュージーランドで664万㎥から2,141万㎥と増加し、世界全体の輸出量は1.3倍強増加しているが、木材輸出大国のロシアは3,678万㎥から1,920万㎥と大幅に減少し、ドイツでは704万㎥から525万㎥と減少している。製材輸出量については、ロシアが1,526万㎥から3,166万㎥、カナダで2,422㎥から3,022万㎥と増加し、世界全体の輸出量は1.3倍強増加しているが、ドイツでは1,293万㎥から899万㎥と減少している国もある。

国内輸入量の内訳

国内輸入量の内訳を2008年と2018年の比較でみると、丸太に関し、一番の輸入先であったロシアが187万㎥から14万㎥と大幅に減少し、米国も197万㎥から168万㎥、ニュージーランドも84万㎥から38万㎥と減少し、輸入量全体でも6割近くの減少となった。製材は、フィンランドで111万㎥から146万㎥、ロシアで112万㎥から134万㎥と増加している国もあるが、カナダで415万㎥から281万㎥と大幅に減少し、輸入量全体は少しの減少に留まっている。

国内における国産材、外材の製材用素材供給量の動向

また、国内における国産材、外材の製材用素材供給量の動向を農林水産統計の木材統計でみてみると、国産材・外材全体の国内供給量として、2000年の26,526千㎥から2018年は16,672千㎥と減少しており、内訳として外材全体では2000年の13,728千㎥から2018年は4,109千㎥と1/3に減少している。要因としては、木造住宅建築の減少による国内の木材需要の縮小、ロシアの丸太輸出関税の引き上げ、中国等の新興国の木材需要の増加、森林保護対策による南洋材の輸出規制が影響しているものとみられている。そんな中、国産材は2000年の12,798千㎥から2018年は12,563千㎥とほぼその水準をキープしており、国産材シェアは2000年の48.2%から2018年は75.4%と順調に延ばしてきた。減少傾向にある外材は、北洋材や南洋材の供給量が激減している中、米材の占める割合は2000年の58.7%から2018年は78.5%と米材が大きく占めている。

国際的な木材の価格を示した「シカゴ木材先物価格」

最近の動きとして、国際的な木材の価格を示した「シカゴ木材先物価格」によると、2020年4月は1,000ボードフィート当たり約260ドルだった価格水準が、2021年4月は約1,370ドルとこの1年で約5倍に価格が上昇し、全米の住宅建設業者の間で懸念が強まっており、かつてない異常事態だと言われている(筆時点は約1,670ドル)。林野庁の木材輸入実績(2021年3月)をみてみると、米国(輸入量に占めるシェア69%)からの丸太の輸入量が135千㎥と前年同月比27%減、製材の輸入量は、EU(前年輸入量に占めるシェア47%)が7%減、カナダ(同24%)は3%減、ロシア(同16%)が31%減など軒並み減少した。米国内において住宅ローンが低金利でかつ、リモートワークの普及で郊外に一戸建住宅を建てる人が増えている等コロナ禍での住宅需要が旺盛で、日本国内に米材が入りにくくなっている状況で、世界中で新築やリノベーションの需要が高まり、日本が木材を買うことができなくなっている。

国内の木材需要が高まり、木材価格の上昇

これまで国内の林業は、木材価格の低迷⇒林業採算性の悪化⇒林業経営意欲低下⇒将来見通し・後継者不足⇒主伐・再造林の回避・間伐等の育林の放棄・山林売却による所有放棄⇒負の連鎖と、林業経営は損益分岐点から操業停止点に直面しているのが定説であった。しかし、国内の木材需要が高まり、木材価格の上昇はある意味林業として追い風であり、国内の立木蓄積量が多い現状を武器に、国内自給率を高めつつ、需要旺盛な国への輸出等により、林業経営も採算がとれる事業になれるチャンスとなるか、今後どれだけ林業施策にアクセルを踏んでいけるか、期待しつつ、その動向を注目していきたい。

以上