海外不動産協会メルマガ(2020年10月13日発行)
海外不動産協会メルマガ(2020年10月13日発行)
今月のメルマガは、『判例から学ぶシリーズ』として、数少ない海外不動産に関する判例の中から、リーディングケースとなる判例をご紹介したいと思います。今月の記事は、理事の犬塚 伸彦氏より発信します。
『判例から学ぶシリーズ』ハワイの土地売買と価格説明(東京地判 平成10年1月23日
ハワイの物件を媒介する業者は、買主がハワイの不動産について知識がなく、売主の希望価格が著しく不当な場合、現地価格等を説明する義務があり、鑑定評価額の2倍を超えるときは、その説明をしなければならないとされた事例。
1、事案の概要
買主Xは、媒介業者Y1(代表取締役Y2)の媒介で、ハワイの土地を購入することとし、平成3年11月A社(オーナーY2)所有宅地(甲地)を300万円で、平成4年8月B社(オーナーY2)の所有農地(乙地)を750万円で、平成4年4月B所有者宅地(丙地)を635万円で、それぞれ購入した。また、Xは、平成4年9月、Y1に598万円を貸付け、B所有農地(丁地)を譲渡担保として、所有権移転登記を受けた。
しかし、Xがその後鑑定評価させたところ、甲地2万2,000ドル、乙地1万3,000ドル、丙地2万4,000ドル、丁地1万3,000ドルであった。
また、Y1は、これらA及びBの物件媒介により、35~60%の手数料を受け取っていた。
Xは、平成7年6月、Yらに対し、Yらの詐欺行為によって損害を被ったとして、損害賠償及び貸金返還を求めた。
Yらは、①売主の希望価格を伝えたに過ぎず、②日本在住の英語を話せない日本人がハワイの土地を購入するには、商品化コストを負担すべきで、不当に高額であるとはいえず、③Xには過失があると主張した。
2、判決の趣旨
⑴媒介業者がハワイの物件を媒介し、購入者に代わって購入手続きを代行する場合、売主の希望価格が著しく不相当なときは、購入者の不測の損害の発生を防止するため、およその現地価格等の基本的な事項を説明した上で、購入の勧誘をすべきである。
⑵著しく不相当な価格とはどの程度をいうか、その判断は困難であるが、少なくとも鑑定評価額の2倍を超えれば、これに該当し、Yらには、注意義務違反がある
⑶Xの損害は、鑑定評価額の2倍を超える金額であるが、Xも何らの調査をしない点、3割の過失があり、Yらが負うべき損害額は317万円となる。
⑷また、Xは、Y1に対し、598万円の貸金債権がある。
⑸従ってY1及びY2は、連帯して317万円を、また、Y1は589万円をXに支払うことを認める。
所感とまとめ
今までに、我が国における海外不動産に関する国内の訴訟事案について、掲載してきましたが、おおむね、「説明責任」や「善管注意義務違反」など投機的な事由にも関わらず、業者への責任を認める判例が多いとうのが印象的です。
また、当該判決においては、「相場価格より2倍を超える場合は不当性がある」と価格の基準を出している点、買主の過失として、「自身でも何も調査していない」など、その場合の「過失割合が7:3割」などある一定の基準を示しており、海外不動産の違法性を検討する際のリーディングケースとなると思います。
小生も業務において、「海外不動産投資の訴訟案件」などを担当する機会があり、弁護士ですら、「専門外」のためよく理解できていない印象を覚えます。
販売業者が媒介業務や紹介業務、コンサル業務などの面目で、営業活動に違法性があった場合、企業側の帰責性がどこまで問われるのかは、結局、司法の判断に委ねるしかなく、「相談をしていても初めから弁護士に相手にされない状況なのではないか?」と感じることがあります。
ほとんどの弁護士は、投資の中でも、海外不動産投資は高度な投資と認識し、「自己責任説」のスタンスを取る一方、クライアントからの依頼で、バランスよく和解交渉を進めるために、企業側にも、ある一定の責任を認識してもらい、「企業側の説明責任の過失」があるとして、損害賠償の可能性が高いとアドバイス、判断するのが一般的な印象です。
投資家にしても、語学の問題や、各国の複雑な法律など、専門性の高い業務としてされていながらも、トラブルになってから始めて、一人で対応できない事実に直面することになり、その時、はじめて「騙された」、「詐欺にあった」などで、販売業者とトラブルになるケースが多発しています。
その結果、宅建業法が及ばないなど、我が国における「海外不動産投資」には、まだまだ法整備がされておらず、ほとんどのケースで、「根本的解決が出来ない」の状態が多く見受けられるのが現実です。
当協会でも、「取引の安全」を実現させるためにも、まず「正しい情報」を発信することが使命であるとともに、もし、トラブルなどで一人で悩まれている場合は、ぜひ、当協会へ情報をお寄せ頂き、まずは、「問題を表面化させる」ことが重要だと考えております。
(2020年10月13日発行)