海外不動産協会メルマガ(2020年4月7日発行)

海外不動産協会メルマガ(2020年4月7日発行)

 

今月のメルマガは、『判例から学ぶシリーズ』として、数少ない海外不動産に関する判例の中から、リーディングケースとなる判例をご紹介したいと思います。

『判例から学ぶシリーズ』~海外での投資的取引と思惑外れ(東京高判平11・2・23判)~

アメリカのアパートの共有持分権を日本人の医師らが日本の大手不動産業者から、投資に有利ということで購入したが、その思惑がはずれたことから、日本の裁判所に訴えを提起し、売却時における売主業者らの説明に虚偽があった等として購入契約の取消し、無効による損害賠償等を求めたが、請求を棄却された事例。 (東京高判平11・2・23判)

事案の概要

売主業者Yは、平成2年、本件産品をアメリカ合衆国ワシントン州シアトルに所在するサマーミルアパートメント(総戸数124戸)に40分の1の共有持分権という権利であり、その安全性・運用利回り及び節税効果等が期待できる投資物件であるとし、国内の医師及び大企業に勤務する者Xらに販売した。

その販売活動は、売主業者と訴外3社の共同出資した業者Aにさせた。販売価格は、1口、25万米ドル余であったが、購人者は約1,000万円の自己資金があれば提携ローンを利用することができ、購入できるように企画されていた。また、本件アパートは、業者Aが100パーセントの株式を保有する現地法人が夫有持分権購入者から一括して借り上げたうえ、ワシントン州法に基づき、貸主として第三者と賃貸借契約を締結してその運用を行うこととした。

アメリカ国内の経済事情の影響の変化による損失

その後アメリカ国内の経済事情の影響を受け、平成9年当時、本件商品は土地の値下がりと為替の変動等により、現在価格(17万米ドル余)は購入価格(25万米ドル余)を遥かに下回り、利回りも借入れ利息すら賄えない状況となったこのためXらは、業者Aによる本件売買の勧誘行為において、本件商品の価格上昇の可能性や本件アパートの入居率等について虚偽の説明がなされたとして、詐欺による売買契約の取消しないし錯誤による売買契約の無効を主張して、売買代金額相当の不当利得返還請求を行った。

本件商品は一般投資家を対象とする金融商品としては不適格であり、またXらも海外不動産に対する投資については素人であったから、Xらは本件商品の投資には不適合であったし、売買対象となる権利の内容や販売価格の妥当性、収益性、投下資本の回収可能性等について説明義務を果たしていないなどと主張して、代金相当額の不法行為に基づく損害賠償請求を求めて提訴した(業者Aに対して支払った支払手数料相当額及び提携ローン会社に対して支払ったローン手数料相当額も損害として請求されている)。

なお、Xらに対する勧誘行為は売主業者Yでなく、業者Aが行ったものであるが、Xらは、業者Aは売主業者Yが企画・開発する海外投資物権の販売・管理をする目的で売主業者Yらの共同出資により設立された会社であり、売主業者Yの一延法な販売行為を帯助する者にすぎないとして、業者Aの勧誘行為は信義則上売主業者Yの行為と同一視されるべきであると主張した。

売主業者Yの主張

これに対して、売主業者Yは、詐欺が成立するには欺問の故意がなければならないが、販売に当たって欺岡の故意をもってXらに接した者は誰もいない。売主業者Yと業者Aは法人格も違うし、販売に携わっていない。また、共有持分権の売買については当時の経済状況も踏まえ業者Aが発行したパンフレット等で購入者に説明してあると主張した。

判決の要旨〜請求を棄却〜

これに対して裁所は、業者Aの担当者による説明に際し、業者A作成名義の本件商品に関するパンフレットや説明書が交付されていたこと等から、業者Aの担当者らの本件商品に関する説明は文書の内容とかけ離れて極度に安金性・有利性を強調するようなものでなかったと認定した。

その上で、
(1)
(ア)本件商品の販売価格については、三パーセントの価格上昇が期待できるとした説明も、本件商品の販売当時における過去の実績からみてかなり厳しく予想した数値であると認められる。
入居率100パーセントであるとの説明については、パンフレット及び説明書には、入居率100パーセントである旨の記載があるが、同時に投資収益予想には5パーセントを空室見込みの記載もあり、必ずしも入居率が100パーセントである旨の説明がなされたとは直ちにいえない。
なお、価格上昇率について必ずしも上昇率の低い物件を削除して、意図的に正確な情報を隠蔽したともいい難く、売主業者Yと業者Aとを信義則上同一視できるかどうかという点について判断するまでもなく理由がないとした。

(2)
(ア)のとおり、本件商品の価格設定、価格の上昇の可能性、本件アパート入居率のいずれの占一についても虚偽ないし誤信を招く勧誘行為は認められないとして、Xらの錯誤の主張も理由がないとした。

(3)本件商品が海外の不動産物件であるからといって、これに関する情報の入手が困難であるとか、不十分な情報しか得られないということはないのであるから、直ちに商品として適格性がないとはいえない。また、Xらはいずれも医師又は大企業に勤務する者であって、相当社会的、経済的地位を有し、社会的経験も豊かな者であるから、本件商品の購入について適合性がなかったなどとは到底いえないとした。

また、本件パンフレット及び説明義務の違反ついても、販売価格(仕入価格、上乗せ利益等)の妥当性については説明義務自体あるとは認められず、本件商品の権利内容、収益性及び投下資本の回収可能性等については、購入者が理解するに足りる説明がなされているとした。

以上のとおり、Xらの主張については、いずれも事実を認めることができないとして、Xらの請求を棄却した。

まとめ

昨今メスの入った海外不動産における個人のスピード減価償却は、当協会でも繰り返し勉強会などを行なってきましたが、こうした投資案件は将来的なリターンを期待しながら、さらに節税効果を狙った夢のような商品であったことは間違いなく、投資家が得られるメリットは大きい。一方で、思惑通りの展開とならず、期待した賃貸収入が得られないという事例も多く協会では意見が寄せられています。

本件訴訟では、売主業者側に投資の勧誘に不当性は認められず、説明義務違反等もないとして勝訴させているが、本件のように、物件の所在が外国に存する場合は宅地建物取引業法の適用はない事にも注意したい。また、節税効果に加え、「賃料保証」などを謳い投資家に有利な条件を広告し、一般的には「かなりおいしい商品」が海外不動産マーケットで多く見られるようになった反面、トラブルも非常に多いことに協会としては警鐘を鳴らしたい。

以上
2020年4月7日発行