海外不動産協会メルマガ(2019年10月8日発行)

海外不動産協会メルマガ(2019年10月8日発行)
メルマガから海外不動産情報をお伝えしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。今日のメルマガは、『判例から学ぶシリーズ』として、数少ない海外不動産に関する判例の中から、リーディングケースとなる判例をご紹介したいと思います。

『判例から学ぶシリーズ』~海外不動産投資商品を販売した業者の不法行為責任 東京地裁H120829~

近年、急増する海外不動産取引において、販売者と出資者とのトラブルも協会設立後の相談として多くなってきました。今後より拡大していく海外不動産取引において、宅地建物取引法、金融商品取引法、景品表示法などの適用が現在の法律関係との関係で十分であるでしょうか。過去の判例などから具体的な事例を確認し、法律はどのような効果が期待できるのかを考えることは非常に有益であると思っております。
今回は、海外不動産に対する投資商品に投資し被害を被ったとして、出資者がこの商品への投資を勧誘した会社に対し説明義務違反があるとして求めた損害賠償請求が棄却された事例をご紹介いたします。

事案の概要

Xらは、平成2年3月ないし同年5月頃にかけて、総合商社Y1から米国ニューヨーク市に所在する不動産に対する、パートナーシップ(複数の者が不動産投資を行う際に通常利用されるリミテッド・パートナーシップに対しての別のパートナーシップを通じて出資するという仕組みによる海外不動産投資)を通じた投資の勧誘を受けた。

Xらは、銀行Y2の顧問であり、総合商社Y1と銀行Y2間で締結していたファイナンシャル・アドバイザリー契約(銀行Y2が、本件投資について投資家の勧誘に成功した場合に総合商社Y1が成功報酬を支払うこと等を内容とするもの)に基づき、銀行Y2から総合商社Y1に紹介されたものであった。

Xらは、総合商社Y1の勧誘に応じて、平成2年5月、本件投資の申し込みを行い、同年6月に契約を締結した。契約に基づきXらは、各自231万ドルを本件パートナーシップに出資し、持ち分割合として各8.32%を取得した。

本件投資の主たる目的は節税効果を得、将来の不動産市況によってパートナーシップの持分の売却時にキャピタルゲインを得るというものであったが、平成11年3月末、本件パートナーシップは、その保有する持分を売却したところ、Xらは損失を被る結果となった。

Xらは、
①総合商社Y1は、本件投資の概要、リスクについての十分な説明を行わず、強引で執拗な勧誘や誤った説明を行うなど、信義則上の説明義務に違反した。
②銀行Y2は、Xらの会社経営全般について専門アドバイザーの立場にありながら、Xらとの間の利益相反行為を隠蔽して本件投資を勧誘し、銀行として許容されている業務以外の行為を行うなどの不法行為を行ったことなどより、総合商社Y1と銀行Y2は共同不法行為責任を負う、などと主張して、不法行為に基づき、Yらに対し、Xらの被った損害を求める訴訟を起こした。

これに対し、総合商社Y1は、
①説明資料を交付すると共に、本件投資の基本的な仕組み、重要なリスクについて十分説明したものであり、説明義務違反ではない。
②Xらと銀行Y2との間に利益相反行為は存在しないし、総合商社Y1と銀行Y2が共同して不法行為を行ったことはない、などと主張した。

これに対し、総合商社Y1は、①説明資料を交付すると共に、本件投資の基本的な仕組み、重要なリスクについて十分説明したものであり、説明義務違反ではない。②Xらと銀行Y2との間に利益相反行為は存在しないし、総合商社Y1と銀行Y2が共同して不法行為を行ったことはない、などと主張した。

判決の要旨

これに対して裁判所は、本件投資における収支がマイナスとなった主たる原因は、米国における不動産賃貸市況の悪化、急激な円高傾向、対象不動産の価格の下落である旨認定した上で、
⑴総合商社Y1と銀行Y2の共同不法行為責任に成否について、銀行がその顧問との間で一定の取引を行っていたからといって、当該銀行が顧問に対して投資に関する専門アドバイザーとして何らかの法的な義務を負うものではなく、Xらは本件投資に参加したのであるから、XらとY2の間の利益相反関係は認められない。

⑵ 銀行のいわゆる付随業務は銀行法10条2項に列挙されているものに限られず、銀行業に付随する業務もこれに当り、顧客に投資案件を紹介等することも含まれるので、銀行Y2が、本件投資への関与によって、銀行の業務の公共性に反し、又は銀行として許容されている業務以外の業務を行ったということはできない。

⑶総合商社Y1の説明義務違反の有無について、
①特別の事情がない限り、投資者自身の責任においてそのリスクの程度を判断し、投資するべきか否かの決定をすべきであるが、他方で、投資者が誤った判断をしないよう的確な情報を提供すべき信義則上の義務を負うというべきであり、右説明義務の内容、程度は、投資者の経歴、能力、知識、経験等によって異なる。

②本件では、総合商社Y1はXらの判断能力に応じて、本件投資の基本的仕組み、これに伴う重要なリスク等の投資者が誤った判断をしないための重要な事項について説明すべき義務を負っていたが、総合商社Y1は、Xらが誤った判断をしないために重要な説明を行ったのであるから、説明義務違反は認められない。などと判示し、本件請求を棄却した。

まとめ

海外動産投資という特殊な取引の性質上、投資家としては、何かしらの情報をもとに判断するしかなく、販売者や専門家の意見に投資判断が左右されるのが現状ではないでしょうか。

判決では、説明義務違反の有無について、「特別の事情がない限り、投資者自身の責任においてそのリスクの程度を判断し、投資するべきか否かの決定をすべきである」という原則を示しつつも「他方で、投資者が誤った判断をしないよう的確な情報を提供すべき信義則上の義務を負う」との判断を示したことは評価できる。

また、損失の原因については、あくまでも「不動産市況の悪化」に着目をしていることから、リスクとリターンは表裏一体であり、投資家としては当然にそれを許容しなければならないことも忘れてはならないでしょう。

国によっての法令、規制や慣習など仕組みの細部まではなかなか理解できない中において、海外資産に関する投資商品等が多数登場している今日、販売者の営業者の経験や知識などをどうやって見極めるか等の投資家自身がリスクをよく理解した上で、さらにセカンドオピニオン等の第三者からの情報などを得て、総合した判断が求められるのでないでしょうか。

以上

次回もお楽しみに。

2019年10月8日発行